「シャーロック、準備は上手く進んでいる?」
吉川アリスは品川の自宅で勉強机の椅子に腰かけて窓の外を眺めながら、通り過ぎる新幹線の音を聴いた。そして彼女が
「ええ、大丈夫よ。タイムリミットまでには準備できるはずだわ」
ベッドに腰かけた流れる長い髪の少女が柔和かつ明朗に答えたので、アリスは少しの間心配するのを辞めた。同じような年頃の丸い顔のかわいい少年が来客用の椅子に座ったまま疑問を挟む。
「僕たちをその名前で呼ぶのは、どうかな」
「問題ないわ、ワトソン。その関連性に気付かれることはないと思う。ここの会話はリアルタイムに 他愛無いお喋りに置き換えられているから」
そう答えたシャーロックは膝の上で手の左右の指先を合わせて三角を形作る。アリスの知るところこれは彼女の癖の一つだ。三人は制服姿で、シャーロックとアリスはセーラ服。ワトソンのそれは詰入りだ。
ノックする音が聞こえ、普段着にしては固い服を着て、坂口春香が部屋に入ってくる。彼女の持つトレイにはグラスが三つのせられ、どれにも十分な量のジュースが入っていたが、二つは
「こんにちは、いらっしゃい」
「お邪魔しています」
シャーロックが優等生な挨拶をして、振り返って母を見ていたワトソンがはにかみながら、会釈をする。二人は先ほど以上に年相応の子供らしく見えた。
「紹介してくれないの、アリス」
坂口春香は、笑いながら咎めるように言う。アリスも笑顔で応じる。
「高屋修也くんと、川原瞳ちゃんよ、母さん」
「アリスが学校でお世話になっています。これからもよろしくね。この子、学校で浮いてたりしないかしら、
「少しは悪くを言うやつも居ますけど、それほどアリスが困るような事をする生徒はいません。安心してください」
「母さん、ここ数日、出勤している時間が変則的だけど、仕事の方は大丈夫なの?」
「いえ、お前がお友達連れてくるって言うからご挨拶してからと思ってね。これから出かけるわ」
「そう。その服はそれでなのね」
「でも家からでちゃだめよ。自分の体のこと分かってる?」
「大丈夫よ母さん」
坂口春香が出ていくと、ワトソンが言う。
「例の探偵が訪ねてきたんだから、アリスが父親を探しているのは知っているんだろう。こうなると化かし合いだね」
シャーロックは、再び、膝の上で指先を合わせて口を開く。
「いいの? いいお母さんじゃない。大丈夫?」
その言葉は半分は本気でもう半分は皮肉。
「大丈夫、私は私で在りたいもの」
アリスは用意していたように答えた。
2016/07/17 初版公開
2016/07/18 改 訂 微修正
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なんの関連性もないけど、これ僕の好物なのですよ。召し上がってみてください。
右ナビの「支援」の中にも入れてます。
これは「大須」のういろ。こっちも大好きです。都内だと大須は売ってる場所わからないんですよね。 どちらも上品な甘さで癖になります。