Lesaria の Multiple-Choice

とりあえず、日記がメインのはず。最近では、小説を公開したり、聴いた音楽や考えてることについて話してます。

第二話 長いお別れ シーン15 わずかな希望

 川原瞳のベッドの上。彼女の部屋の天井を眺めながら、自己の同一感に若干の揺らぎを感じつつ、横たわっていた。エリカから届いたメールの内容でシャーロックは予定通り、事態が進んでいる事を確信した。腹の上で両手を合わせて三角形を形作る。そして、アダプタ適合機を介して高屋修也に尋ねた。

<ワトソン、受入れの準備はできてるかな>

<抜かりないよ。そっちは?>

<現時点での情報と状況の同期を終えたよ。予想した通りの展開になってる。ひとまず安心だ。現地の手配も済んでる>

<こう考えてみると僕たちが同期できないのは不便だね>

<仕方ないさ、無理に出来るようにするより、多分この方が都合がいい>

 瞳の母親から食事が出来た旨、メッセージが届く。

<では、ワトソン、また後で。私は食事に行くよ>

<瞳ちゃんの家は、夕食早いよね>

 ワトソンが、高屋修也らしいことを言い。川原瞳は少し笑った。そして、母に今から食卓に向かうと返信して、起き上がった。


 ◇ ◇ ◇


「富岡との取り決めで、許可があるまで、娘さんとは会えないって事かしら、吉川さんはそれで、納得してるのね」

 八神幸子は、俺の説明に、そう応じた。事務所のソファーに腰を掛ける彼女からは、柔和な佇まいで誰もを安堵させる。これでいて、怖いほどキレる。底が知れない。

「もう一度まとめると、吉川夫妻には、小学3年生の時に、事故死した娘がいた。妻は自分の研究を活かし、死んだ吉川アリスの記憶をコピー。非合法に研究していた、人の記憶を処理出来るプロッセッサを利用して、彼女をこの世に呼び戻した」

 俺は煙を吸い込んで吐き出し、そして続けた。

「夫妻の望みは、娘を再び物理現実フィジカルに生き返らせる事。夫はその時、電子的なコピーと気付かせない為に念入りに成長を模倣する義体の研究にまで投資した。そして息のかかった学校にF型免疫不全症を理由に拡張現実アストラルで通わせた。」

 八神幸子に連絡を取って事態を説明するようにせっついた、赤毛のガキは、女史の向かいのソファーに座り、難し気な顔をしてる。

「富岡は、吉川の会社との取引を打ち切って、傾かせ、彼が立て直しに奔走する間に妻を寝とった。これらは、たぶん、彼女の研究する諸々の独占を強固なものにするためだろう」

 続けてガキは伏目がちなまま、静かに毒づきだす。

「研究と娘を物理世界に生き返らせるため、娘の記憶を富岡を父と思うように書き換えるのも渋々飲んで、プロジェクトの継続をネタに富岡の言うなりって訳よ」

 俺は、それをよそ目に、灰皿で煙草をもみ消した。

「それで、どうして私を呼んだの、エリカさん」

 八神幸子は、ガキに向き直り、聞く。このあたりの洞察力はさすがだ。

「どうしてもなにも、これは企業による犯罪だわ。貴方に相談すべきケースだと思ったの」

「それだけ?」

「アリスを助けられない?」

「具体的にはどうしたいの?」

 しばしの静寂。レナが読んでいる本の頁をめくる音の後、はねっかえりは口を開いた。

「合法に全身義体の少女として生きられない? その道はない?」

「彼女は、犯罪の証拠品として、応酬されるわ。そして、すぐに凍結される。非合法のAIとして。でも、可能性はある」

「可能性…。どんな?」

「そう、彼女の人権に関して問題提起する報告を上げれば、上手く行けば、国の倫理委員会が調査する。人間として認めて、人権を与えるべきか否かを。その俎上に載せることが出来れば、結論が出るまで、凍結は解かれるわ。でも、そこまでに5年は掛かる」

「5年もなのね」

「そこから先も時間がかかるでしょうね。彼女が義体で生活できるようになるまで。国内にはいままで無い事例だから」

 暗い顔で、はねっかえりが黙り込む。俺は何かしらの言葉を探して、タバコに火を点け吸い込んでゆっくり吐き出してから、その言葉を口にした。

「吉川アリスは、歳を取らない。身体が仮装現実コーザルだ。時間は彼女の味方になる。そうじゃないか?」

「私もその意見に賛成よ、エリカさん」

 息を大きく吸い込んで、子供らしからぬ低い声で言葉を絞り出す。

「分かりました、お願いします。八神さん」

「でもこのままでは、問題は難しくなるわね。人間の記憶から改変されたデータに成ってしまっては、この方法では救えない。何より彼女が損なわれてしまう」

 その台詞にエリカの顔にわずかに焦燥が浮かぶ。

「大丈夫、だから私が来たのよ。ノヴァーリス・システムの違法AIの研究に関しては、同僚が内定を進めていたの。今、貴方たちから得た情報のおかげで令状が降りそうよ。突入は本日の20時。予定通り、貴方達は、吉川夏雄とアリスが合うのに立ち合って下さい。私もご一緒します。悪いけど彼は重要参考人なので、身柄を引き取りたいの」

 はねっかえりも俺も、その言葉に驚きつつ、八神幸子を見つめた。

 


2017/02/12 初版公開 +22:17 ちょっと改訂 で初版とすw

2017/02/13   改 訂  最後の八神幸子のセリフ。最後の文を変更。

2017/02/19   改 訂  非合法に研究しており → 非合法に研究していた

 

 

 


 後書き

 ちなみに、善意の協力者で定時された、アリスとの待ち合わせを8時に変更してます。あっちは誤記でしたもので(汗

 第二話が終了したら、振り返りをしますが、まぁ色々ここまでこぎつけるのに迷走がありましたですな。

  あと、小説を書くモチベーションをもっとコントロールする必要性を感じています。それで執筆スピードをアップするのじゃ~と。しかし、この作品、早く書かないと、現実が追いついてきそうで怖いですな。ARもAIも段々、現在のモノになってきてますものね。

 NEXT

multiplechoice.hatenablog.com

 ↓ ホームズではなくて、シャーロックなのはコレのせいです。