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Lesaria の Multiple-Choice

とりあえず、日記がメインのはず。最近では、小説を公開したり、聴いた音楽や考えてることについて話してます。

第二話 長いお別れ シーン8 日本橋のオフィス

自作小説

 神崎と面会した建物には学食があり、私はそこで遅めの昼食を食べていた。拡張現実でスーツを重ねていたからだろう。学生が私の前にメンチカツ定食の乗ったトレイを前に置き、親し気に声を掛けてきた。

「君はもう内定もらえてるの?」

 小野田と名乗り、清潔で知的な印象。だけれど声を掛け慣れているように思える。男って馬鹿ねと。聞こえない声で呟く。

「貴方はどう順調なの?」

 そう返すと自慢げに内定した会社の自慢話を始める。私はつけ麺を食べながら、話を興味深げに聞いている演技をして、相槌を入れながら、橋田博子の秘書からの返信を開いて確認する。一時間後に面会できるようスケジュールしたので訪ねるようにという内容だった。

 我に返ると、その会社で是非、大きな業績を上げたいと、熱弁を振るい終わった小野田が、子犬のような目をこちらに向けて来る。面倒だと思った瞬間、イタズラ心を抑えきれなかった。

「貴方、本当はそんな会社で、そんな仕事したい訳じゃないでしょ。そうやって自分についた嘘を自身に言い聞かせてるのよ。違う? 年収、生涯賃金や労働環境を天秤に掛けて、魂を売るんだわ。貴方は本当にしたい事をする勇気がないんじゃないの?」

 はっきり言って魂なんてクソくらえだ。私は同じ立場なら、売ってもいいと考えるだろう。そういうレベルの会社に内定を貰っていても、こういうセリフに人は揺れるはずだ。十分に嘘を信じていてさえ。だから、ちょっと試しに言葉を投げつけたのだった。

 困惑した顔、悩み始め、目が彷徨う。思いの他、胸に刺さったらしい。目が合うと笑顔で取り繕う。これはやりすぎたかなと思い。「じゃあ頑張って」と言葉を置いて、そそくさと、その場を離れた。

 小学校の教諭に貴方は男子生徒に辛辣に当たりすぎる。と説教をされたことがある。自覚はあった。

 特に親しくしてくる男子はなにか無性に、からかってやりたくなる。試してやりたくもなる。見下した態度で接すると、どう態度を変えるんだろうと気になる。

 もとは何だったのかわからないソレが、いつの間にか楽しくなっていたのだ。中学に入って改めはしたものの。母は偶に「貴方、あの人が居なくなってから変わったわね」と口にだす。私はそれを認めたくはなかった。

◇  ◇  ◇

 

 南北線飯田橋東西線に乗り換えて地上に上がると、日本橋とその上に川を覆う天蓋のように左右に伸びる首都高速。過去にはこれを川の下に埋めようという計画があったそうだ。私なんかは、川の上を走る道路というのも風情があるような気がする。

 視界に合成されるガイドに従って並ぶビルの一つに入る。エントランス・ホールの奥にエレベータがあり、それをセキュリティ・ゲートの列が遮る。実際には乗り越えることは可能だが、そんなことすれば目立って仕方あるまい。秘書がメールに添付してよこした、カードをアクティブにして通り抜けた。

 指定された7階にたどり着くと、エレベータのドアが開いた途端に、美しい女性が丁寧に腰を折って頭を下げた。紺のパンツ・スーツにフリルの襟。

「宮村エリカさんですね、お待ちしていました」

 そう呼び止めて、私を見つめて微笑む。

「私はこちらで秘書を務めます、マリオンです。どうぞよろしく」

 拡張現実アストラルで表示される胸元のプレートには、名前の前に〔AI:マリオン〕の文字。そこから物理現実フィジカルな彼女が実はコンピュータ制御であることが分かった。通された場所は来客用の部屋らしい。観葉植物が端に置かれていた。

「お待ちください、橋田はすぐに参ります」

 言い残して、秘書が去った後、一人きりで、腰を下ろして待った。清潔で簡素。プラスティックな雰囲気で、モダンな机、椅子。四人が席に着くと丁度いいぐらいの部屋だ。

 しばらくして、扉ノックする音。先ほどのマリオンが扉を開ける。私が立ち上がろうとすると、橋田らしき女性は「どうぞそのままで」と言うので中腰で会釈することになった。
 知的で意思の強そうな眉。肌や顔の皺と裏腹に立ち振る舞いから年齢は40は過ぎてるように思う。ショートヘア。ジャケットの下は襟のないブラウス。黒真珠のネックレスにタイトスカート、全部、ル・スタイル・サン・エヴァ で固めてる。いつかは、私もここのブランドでコーディネイトしたいものだ。

 挨拶を交わすと橋田は、時間がないので申し訳ありませんと前置きして単刀直入に話を進めてきた。

「吉川の事でお見えと聞いています。神崎教授からも連絡がありました。彼とは一度お会いしただけではあるんですが、娘さんが、彼を探しているとお聞きしました。詳しくお話し願えますか」

「娘さんは、吉川さんと連絡が取れないそうです。正式な依頼を下すった、神崎教授も同じ状況なんです」

「なるほど」

「橋田さんは、彼の会社の役員でいらしたんですよね。こちらでもですか?」

 私は執行役員と書かれたプレートを一瞥して訪ねた。

「ええ、私は彼の会社の外部役員を務めていました。こちらが本来の勤め先です」

「差支えなければ教えていただきたいんですが、吉川さんはどうして、経営不振に陥ったんですか」

「探偵さんのお申し出なのでお答えしない訳ではありませんが、彼の行方に関係ありますか?」

「娘さんとも、友人とも、連絡を絶っている。つまりは自分の意志で彼らから身を隠している。会社を破産させて、ご家族と離婚して別居されている。個人保証もしていたんでしょう。ご自身も破産処理されたと考えるのが自然です。でも、そういう事ならこんなことする理由が分りません。神崎教授は彼が自己破産されたとは考えてらっしゃらないようでしたけど」

「貴方、何かあると思ってらしゃるのね。そして、その理由が分れば見つかる」

「そうですね。何もないなら、それが分かるだけで考えなければならない可能性が一つ減ります。ピースの断片がほしい。そんな風に考えていただければ」

 橋田は間をおいて、口を開いた。

ノヴァーリス・システムってご存知?」

「はい、機械身体とその制御と、人工知能に特化した企業ですね」

 お昼に神崎教授から聞いて、移動中に調べたばかりの社名だった。

「彼の会社は、収益をそことの取引に依存していたの。開発したソフトウェアのライセンスを供与する形でね」

「でも、ノヴァーリス・システムは、経営方針を変更したの。自社開発のソフトウェアに切り替えた。富岡専務の判断だって聞いているわ」

「他社に供給する訳にはいかなかったんですか?」

「そうよ。行かなかったの。そのソフトはノヴァーリス・システムの制御アーキテクチャの上で動くように設計されていたから」

 吉川社長の会社は、その妻の勤め先に経営的に依存していたってわけね。少し引っ掛かる。

「そして結局。資金がショートして、倒産したんですね」

「それだけじゃなくて、新しい投資をしていたことも関係するわ」

「と言いますと?」

「成長する機械身体の研究を行っていたの。吉川が随分熱心に進めていたわ。契約を更新しないと伝えられる前にも追加投資を行ったわ。あれが無ければね」

「成長する機械身体? ソフトウェアの会社じゃなかったんですか。」

「かなりハードウェアよりのドライバなので、そちらにもノウハウはあったのよ。障害を持って生まれた子供たちの中には、生後すぐに義体化しなきゃならない重篤なケースがあるわ。でも成長の過程で何度も体を買い替えることの出来る家庭は少ない。あれが出来ればその問題を解決できる。彼はそう考えていたのね。会社を興したのも、本来はそのためだって聞いたわ。とはいえ5年ほど前から急に力を入れ始めてね」

「立派な方だったんですね」

「志は立派でも、急いて、会社を潰せば従業員も本人も露頭に迷うわ。うまくは行かないものね」

 私も彼女もしばらく無言だった。

「念のためお聞きします。吉川さんとは連絡は付きませんか?」

「ごめんさない。今は連絡先を知りません。正確には私も返信を貰えないの。でも、心あたりはあるわ」

「どうい事でしょうか?」

「二週間前、彼と手続きの都合で会った場所は新宿だったわ。二人でコーヒチェーンに入ったんだけれど、アダプタ適合機も付けてなかったので支払いは私がしているの。交通機関も利用できないから、ひょっとして新宿周辺にいるんじゃないかしら」

 橋田の顔には気の毒そうな表情が浮かんだ。

「連絡はついたが、アダプタ適合機を身に付けずに現れたんですね」

 私が確認すると、ハッとした顔をする。

「そうね、そうなるわね」

 私達には疑問が浮かんだ。

 


更新履歴

2016/08/14 初版公開

2016/08/15  改 訂   こまごまと修正

2016/08/15  改 訂   「?」を一つ挿入(w

2016/09/08  改 訂   いくつかの文章に手を入れました。 

2016/09/17  改 訂  橋田と吉川夏雄のあった日を二か月前から二週間前に

2016/02/12  改 訂   マリオンのネームプレートに関する記述を修正

2017/02/12  改 訂   「キャロル・ドライバーは、」の文字を落とした。

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