今朝、高田馬場にある、2DKの
俺の性分だと昔なら部屋は散らかったに違いないが、時代というべきか、物理的な持ち物は少ない。おかげでそこそこ片付いている。それに、子供を一人育てるとなると、そうそう自堕落にも過ごせない。顔を洗い、歯を磨いて、左右に残った白い頭髪にブラシをあてる。問題の出来事は、朝の日課のひと仕事を済ませて流し、蓋を閉めた時に起こった。腰に猛烈な痛みが走り、俺は思わず間抜けな声を口からもらした。
「ひぃっつ!!」
ちょっとはマシになるかと思って布団に戻って横になる。収まらないようなら医者にも行かなければならない。とりあえず痛みから逃れるために、視界にメニューを呼び出して、
俺の前に出入りするためだけに用意した、全てが白いポータル・ルームが現れる。ここを飾ることもできるが、出来るだけ
俺も、昔は歳を忘れ、ここを通って、南米のジャングルにインカの遺跡を発掘しに訪れ、ナチスと銃撃戦をしたり、剣と魔法の支配する世界を魔王から救くったものだ。イギリスの諜報員として活躍したこともある。
ここではどんな願望もコンテンツが叶えてくれる。しかし、水を飲んで喉を潤しても渇き、メシを食って腹が膨れても飢える。考えようによってはとんだ桃源郷だ。
さて、午前中に事務所に依頼人のアポイントがあるのにどうしたものか。おれは普段使わない
◇ ◇ ◇
はねっかえりが依頼人と出て行った後、俺は現実に戻り、近所の病院の整形外科になんとか自分で歩いて行った。道中、冷や汗が止まらない。
帰りに、駅前に向かいながら、煙草を口に咥えかけて止めた。啖呵を切って出て行ったガキの顔が浮かんだからだ。駅前のロータリーに喫煙所があったハズだ。そこまで我慢することにする。
腰痛用のコルセットの中が汗で湿気る。自宅とは言わないまでも、せめて事務所でゆっくりしていたい。何せ歩くと響く。汗を拭くためにうっかりハンカチを探すが、ポケットに入れた記憶がない。腰痛に気を取られうっかりしていた。喫煙所にたどり着いたおれは、紫煙を吸い込み一息つく。
<おい、コオロギ。居るんだろう>
<はい、太一さん。おそばに控えております>
深々と頭を下げて、こういう具合に返事をする。買う前にデモで見た時は可愛くユーモラスに見えたのを覚えてる。人と関わるのが苦手な娘にと思って買ったものだが、こいつのこういう喋り方が、今となっては気に食わない。だいいち人工知能ってやつがそもそも気に入らない。今時、こういうものがないと世の中も生活も回らないのは分かってはいるんだが。
<吉川アリスからの依頼のメールをもう一回見たい>
本来なら自分でウインドウから探す。自分でも分からない。なんの心境の変化か、グリレに頼んだ。
<太一さん、珍しいですね。私を呼び出されるなんて>
<ふん、黙ってだせよ>
<少しお待ちを、1件ありますね。3日前です。お望みの条件に合致しますか?>
<ああ、これに、住所は書いてあるか? 最寄り駅は何処だ?>
<この住所ですと、JR品川駅か都営浅草線の泉岳寺駅になります>
<わかった。もういい。消えろ>
<仰せのままに>
受け取ったメールの封書を片手に、駅に隣接する
2016/06/06 初版公開
2016/07/03 改 訂 起きた時の灰皿と、駅前でビッグボックスに言及。
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↓プチ日記。女性でフランス語・ラップ 何言ってるかわからないんだけどすっげークールなのでポチっちゃいました。
La Rage - Keny Arkana - French Rap (English subtitles)